20年以上前、現在も営業部の主力として活躍するベテランスタッフが協進エルに入社した際、上司から「いちばんつくるのが難しい革は、ソフトスムースだ」と教えられたそうです。
ソフトスムースは特に珍しいものではなく、よくある革なので、そのスタッフはその意図を理解できなかったそうですが、そこからたくさんの革に触れることで、当時は分からなかった難しさを痛感したとのこと。
今回はその解説とともに、ソフトスムースのひとつ、『シャトーブリアン』の魅力についても深堀り。シャトーブリアンはタッチが滑らかで、肌目も良く発色も良いので、それだけでもすごいのですが、実は見えない部分にも凄さが隠れています。さっそく見ていきましょう。
革の大敵「シワ」はなぜ生まれる?
まずは先に紹介した「ソフトスムース」について。ここでの定義は「隅々までシワや粒がなく、表面が滑らかな状態」で、かつ「握った時に芯がなく、ソフトな感触を得られる」状態を指します。
そもそも革は、「吟面」と呼ばれる表皮層と、その下にある「床面」と呼ばれる網状層の二層構造になっています。この二層の大きな違いが繊維密度です。
吟面と床面の繊維密度の差。これが扱いの難しさをつくり出します。
吟面は繊維密度が高く、スムースの状態ではよりほぐれにくくなります。一方で床面は、もともと繊維密度が低くほぐれやすく柔らかくすればするほど硬さの違いが広がっていくので、床面の伸びに吟面がついていけません。結果的に、見た目はスムースに見えても、繊維密度の低い腹部(ベリー)に近づくにつれシワになったら戻らない状態になってしまいます。
シャトーブリアンに似た国産の革を指で押してみます。
指を離してもシワが残ってしまいます。
このようにシワが残ってしまう状態のことを我々は「吟浮き」と呼び、この部分をメイン部分に使用して製品を作ってしまうとすぐにシワシワになってしまうので、お客様には好まれません。
この繊維密度の違いはどんな革にも存在していて、それがお客様に好まれる部分が多いソフトスムースをつくるのが難しい大きな要因です。
シャトーブリアンのすごさとは?
ここまで革を構成する二層の特性の違いから、スムースを柔らかくすればするほどシワができやすくなってしまい、使いにくい革になってしまうことを説明してきました。しかしフランス産の最高級スムース革『シャトーブリアン』は、少し違います。
以下の画像のように、腹部(ベリー)に近い部分を指で押してシワをつくってももとに戻ります。これがシャトーブリアンのすごいところ。
先ほどと同じように、シワをつくるためにシャトーブリアンを指で押します。
しかしシワは残りません。これがシャトーブリアンのすごいところ。
以前にこちらの記事でも書きましたが、シャトーブリアンの原皮となる牛は、筋肉質で網状層も繊維密度が高いのが特徴です。さらにデュプイ社の熟練の鞣し技術と、絶妙な仕上げ技術のバランスによって、シワになりにくい革ができあがります。
また製品になってしまうと見ることができなくなる「断面」にも秘密があります。
下にある断面の画像を見ると、中心部に染料が入っていないことがわかり、表と裏をスプレーで色付けしただけのようにも見えます。しかしさらによく見てみると、吟面からも床面からも、ほんの数ミリほど染料が入っていることが分かります。
シャトーブリアンの断面。上からも下からも、数ミリほど染み込んでいるのがポイント。
これはしっかりとタイコに入れて染色をしている証拠。あえて中心まで染料を染み込ませないことで、繊維がほぐれないようにしているということです。ソフトでありながら強いコシがあり、製品になっても吟浮きせず、型崩れしないシャトーブリアンの秘密がここにあります。
製品を使えばより理解が深まると思いますが、お気に入りの状態が長く続くのが、シャトーブリアンで作られた製品の特徴。これは見た目が似ている他のソフトスムース革ではなかなか実現できないことであり、弊社の中でも人気が高いシャトーブリアンの秘密です。

冒頭に登場した協進エルのベテランスタッフも「究極のソフトスムース」と話すシャトーブリアン。デュプイ社の正規代理店である協進エルに、お気軽にお問合せください。