協進の仲間たち

2023.04.11 UP

【対談】コンツェリア・ラ・ブレターニャ社 / パオロ氏「信頼と協闘が育んだ30年の歴史。そして未来へ。」後編

世界中の人々を悩まし続けた新型コロナウイルスが少し落ち着いた2022年11月。協進エルと長く、そして深いお付き合いをするイタリアの名門タンナー『コンツェリア・ラ・ブレターニャ(以下:ブレターニャ社)』よりパオロ氏が来日し、協進エルを訪問してくれました。

日本とイタリアという距離を超えて多大なる信頼を寄せ合い、30年に渡って取引を続ける2社の間に流れるものとは? そして互いに対する思いとは? 協進エルの肥沼と田辺を含めた3名が集まり、まるで友人同士のようなカジュアルな雰囲気の中、トークセッションは進んでいきます。

パオロ・テスティ (コンツェリア・ラ・ブレターニャ社)

1961年創業。イタリア・トスカーナ地方で植物タンニンなめしを行うタンナー「コンチェリア・ラ・ブレターニャ」の経営者であり、職人。イタリア植物タンニンなめし革協会の理事も務めている。

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若き日のふたりをつないだ
もうひとりのキーパーソンの予言が、現実に。

約30年前に浅草で開催された展示会にて、ブレターニャ社のパオロ氏と協進エルで約50年勤め上げた元スタッフが出会いを果たし、そこから両社の関係がスタートしたことは前編にてお伝えした通り。

しかしそこにはもうひとりのキーパーソンがいたことをパオロ氏は話してくれました。そこからあまり知られていない若き日の田辺の修行時代の回想録へと続きます。

<パオロ氏>
私とすでに辞められた元スタッフ、そして協進エルの関係が築かれるのに、とても重要な役割を果たされた人がいます。それは当時、私の来日時に通訳を担当してくれていた方。残念なことに、彼はもうお亡くなりになられましたが、通訳者でありながら旅行家でもあり、またとても教養があって、ビジネスにおいても人生に対してもオープンマインドで素晴らしい男性でした。日本の文化がどういったものなのか、そして日本人と仕事をする上で何を意識すべきかといったすべてを私に教えてくれたのがその人だったんです。

イタリア人らしい陽気さと、相手のことを思いやる優しさを持つパオロ氏。

故人となったその通訳者はパオロ氏と協進エルをつないだだけでなく、田辺にも人生のチャンスを提供していました。その時を思い起こして、田辺は語ります。

<協進エル l 田辺>
私が当時勤めていたハンドバッグメーカーと付き合いがあったことで、私もその通訳者のことは知っていました。そして私はある時、その会社を辞めて、彼にアテンドしてもらうカタチで『リニアペッレ』に行きます。あそこが人生のターニングポイントになりました。

協進エルの田辺は、ブレターニャ社の“引き受け”がなければ、今はなかったと話します。

イタリアで行われる世界最大級の革の展示会『リニアペッレ』に参加した後、田辺に経験を積ませるために、その通訳者はいくつかの現地タンナーに「数ヶ月でいいから、彼を働かせてほしい」と声をかけてくれたとのこと。そこで手を挙げたのがブレターニャ社だったそうです。経験もない外国人を雇うのは、さまざまなリスクが伴うこと。そんな中で自分を迎え入れてくれたブレターニャ社への感謝の念を今も持ち続けていると田辺は語りました。もちろんパオロ氏も、当時のことを鮮明に覚えているようです。

<パオロ氏>
田辺さんを受け入れるべきかどうかを迷っている時に、その通訳者の方が私たちに伝えてくれたのは「今はいろいろと思うことがあるだろうけど、勇気を出して一歩を踏み出してみたら? きっと君の将来に役立つよ」ということでした。そして「いつの日か、君の革を日本で売ってくれるかもしれない」といったことも言われた記憶があります。

協進エルが扱う革の中でも圧倒的な人気を誇る『アリゾナ』は、なんと言っても多色展開が魅力。

Conceria La Bretagna

ARIZONA / アリゾナ

生産国 : イタリア
タンナー : コンツェリア・ラ・ブレターニャ
種類 : 牛ショルダー
平均サイズ : 140ds

そこから2ヶ月間は、田辺にとって忘れることのできない濃密な時間となったようです。

<協進エル l 田辺>
私はまだ日本のタンナーも見たことがない状態でしたから、とにかくすべてが新鮮で、驚くことばかり。そんな中で、とても丁寧に革の知識を教えてくれたのがパオロ氏です。私の質問に対して分からないことがあると、家に帰ってから調べてくれて、翌日に教えてくれることもありました。あの時に学んだことを書き留めた大事な手帳があります。私にとっては宝物ですよ。

田辺が「宝物」と話す手帳がこちら。後日、持ってきてもらいました。

手帳の中には、パオロ氏が手書きで記した革に関する説明や……

パオロ氏のお母さんによる食事のメニューまで。「ピッツァ マルゲリータ」などと書かれているのが分かります。

そしてまるで家族のように過ごした2ヶ月間を、パオロも思い起こします。

<パオロ氏>
私たちも最初は田辺さんとどのように過ごして、何を教えたらいいのかをすごく悩んでいたんですよ。でもすぐにみんなが田辺さんのことを大好きになって。2ヶ月間、毎朝車で迎えにいき、12時からは一緒にランチをとって、家族同然のように過ごしました。田辺さんが日本に帰る時には、私の母は涙を流していたんですよね(笑)

2人をつないだ通訳者の予言は現実のものとなり、今では互いに信頼のおけるビジネスパートナーとして協力しあうようになります。この日、田辺と2人で撮った写真を、早くイタリアの母親に見せたいと、パオロは優しい目で話していました。

田辺さんが日本に
帰る時には、私の母は
涙を流していた

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時代や世代を超えて
受け継がれる協進エルの強みとは?

協進エルにとってブレターニャ社とはどういった位置づけのタンナーなのかを聞いた前編。今回は逆にブレターニャ社のパオロ氏は協進エルにどういった印象を持っているのか。それを聞いてみます。

そもそも日本国内における無用な競争を生み出さないためにも、多くの企業とは取引を行っていないブレターニャ社。その中でパオロ氏は、協進エルが持つ独自の強みをふたつを挙げてくれました。まずひとつ目が「安定性・持続性」です。

<パオロ氏>
協進エルは、仕事をする上での態度が一貫していて、時代や流行に左右されることがありません。また例えばSNSを活用するなどして華々しいプロモーションを行うこともないという印象があります。すごく手堅く会社であり、一つの商品を導入すると決めると、持続的にずっと需要を創出して、私たちタンナーに対して、継続的な発注するということを目指してくださっていますね。それができるのは「どういったお客さんに、どんな革を売るべきか」というアイデアが明確だから。当然、時代に合わせて会社というものは変わっていかないといけないものですが、協進エルの場合はゆっくりと安定性を保ちながら変化しているのが強みだと感じています。

協進エルが持つ独自の強みを、ふたつに分けて説明をするパオロ氏。

継続的にタンナーへ注文が出せるように、定番商品となることを狙っているというのは、肥沼も田辺も常に意識しているところ。そこをパオロ氏もきちんと理解し、評価してくれているようです。さらに話は続きます。

<パオロ氏>
私たちもあまりSNSの力には頼っていません。やはりソーシャルメディアを通した関係ではなく、実際に現地に足を運び、人と会って話をする。それが有効だと考えていて、そこは協進エルと似ているのかもしれません。私は協進エルのクライアントが、素材となる革をどのように使っているか、具体的にすべてを把握しているわけではありません。ただ肥沼さんや田辺さんがそれをとてもしっかりと理解していて、私たちに伝えてくれます。そういうインプットは協進エルだからこそできることですね。

3人ともが、仕事仲間でありながら、長年の友人のような感覚で話が弾んでいました。

大事なのは実際に人と会い、会話をしながら、一緒にものづくりを進めること。業種は違えど、協進エルとブレターニャ社の根底には、似た思想が流れているというのがパオロ氏の考察です。

「仕上げ」せずにつくられる『アリゾナロウ』。革本来の表情を存分に楽しむことができます。

Conceria La Bretagna

ARIZONA RAW / アリゾナロウ

生産国 : イタリア
タンナー : コンツェリア・ラ・ブレターニャ
種類 : 牛ショルダー
平均サイズ : 140ds

そしてパオロ氏の考えるふたつ目の強みとして挙げられたのが「話を聞く力」でした。

<パオロ氏>
他の業者だと、『ブレターニャ』という会社自体には興味がなくて、素材の特徴と値段の話しかしてこないところもあります。でも協進エルはそうではありません。私たちが会社として大切にしている哲学の部分を非常によく聞いてくれますね。

革そのものの品質はもちろん、「誰が、どんな思いでつくっているか」を大切に考えなければならない。連綿と受け継がれ続ける協進エルの信念を貫き、つくる人の思いまでを深く理解しようとする姿勢が、パオロ氏の共感を得ているようです。

仕事をする上での態度が
一貫していて、時代や流行に
左右されることがない

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リラックスした気持ちで変化と向き合い、
未来へと進んでいく。

両社が培ってきたかけがえのない歴史を改めて振り返りながら、かたい絆を確かめ合うカタチとなったこの鼎談。最後に今後の展望を語ってもらいました。まずは協進エルの肥沼からひと言。

<協進エル l 肥沼>
我々としては「クライアントによい革を安定供給する」という絶対に守るべき使命がありますので、今までと同じく継続的にブレターニャ社に注文ができるように努めていきたいですね。パオロが健康でいてくれれば、これからも何の問題ありません(笑)

会社の使命を果たすべく、一貫した姿勢を崩さない肥沼。対談中、幾度となく爽やかな笑顔を見せていました。

さらに田辺からは少し違った角度でひと言。

<協進エル l 田辺>
いま新しく協進エルのWebサイトをつくっているので、もっと情報発信をしていきたいと思います。すでに日本の革屋さんは、みんなブレターニャ社のことはみんな知っているし、弊社で在庫している商品以外の認知度も高くなっていて、誰もが「ブレターニャ社の革なら安心だね」と感じていると思います。私たちもより大きな自信を持って営業できるように、もっと発信力を高めていきたいですね。

若き頃を振り返り、パオロ氏との絆を確かめ合えた田辺にとっても思い出に残る時間となったようです。

そして最後にパオロからも言葉をいただきました。

<パオロ氏>
時代が進むにつれて、あらゆることが変化していきます。これは私たちの力だけでは、もうどうしようもないことです。そしてその中にはネガティブな情報もたくさん出てきます。しかしそういった変化に対して、重苦しい気持ちではなく、微笑みを浮かべながら受け入れていくという姿勢でいたいですね。お客様と話す時にも、変化を“ヘビーな情報”としてお伝えするのではなく、変わるということに対してリラックスした気持ちで向き合いたいです。

おちゃめな表情やジェスチャーが印象的なパオロ氏。また次の来日が楽しみです。

パオロ氏らしい、人間味に溢れた意見が聞かれました。そういった世の中から求められる変化に対して、ブレターニャ社では具体的にどのようなアプローチをとっているのでしょうか。それに関しても、すこし言及されています。

<パオロ氏>
ブレターニャでは今、働く環境をよりよいものにしていくために、工場の屋根の改修を行っており、また太陽光パネルの設置も進めています。そういった環境への配慮をカタチにすることや、原皮から製品になるまでを正しく追跡できるトレーサビリティ機能を高めるための取り組みを実施してきました。さらに新しいドラムを2台導入したり、ミュンヘンにショールームを立ち上げたりしながら、事業規模の拡大に向けた投資も行っています。

伝統的な「バケッタ製法」を用い、時間をかけてつくられる協進エルのオリジナルレザー『ペコスハード』も人気商品。

Conceria La Bretagna

PECOS HARD / ペコスハード

生産国 : イタリア
タンナー : コンツェリア・ラ・ブレターニャ
種類 : 牛ショルダー
平均サイズ : 140ds

世界的に確固たるポジションを得た今なお、新しい挑戦を進めるブレターニャ社。ちなみに協進エルに対しては未来に向けた思いがあるのでしょうか。

<パオロ氏>
『植物タンニンなめし』というのは世界最古と言っていい素晴らしい技術です。ただきちんと説明をしないと、そのよさやメリットをなかなか理解してもらえません。協進エルのスタッフは、みなさん「話を聞く力」を持っていて、また常に新しい情報を学ぼうとする姿勢を持っています。そういった知識を日本で多くの人に広めていってほしいですね。

といったところで、3人それぞれの人柄が伝わる和やかな時間が流れた今回のトークセッションは終わり。この後すぐに、3名はひと息つく間もなく、実際の取引に関わる商談をスタートさせていました。クライアントに満足を提供し、そして世の中に素晴らしい革製品が広めていくために、まだまだ挑戦は続いていくようです。

(おわり)