協進の革

2023.09.29 UP

夏の“バカンス問題”、どう乗り切る?

私たち協進エルのようにインポートレザーを多く扱う業者にとって、毎年7〜8月はとても悩ましい時期になります。その理由はとってもシンプル。「ヨーロッパから革が届かなくなるから」です。ではその時期はなぜ届かないのか。そしてどのように対応することで、それを乗り切っているのかを見ていきましょう。

日本とあまりに違う休み方。

皆さんは『バカンス法』というものを聞いたことがありますか? これは毎年5月〜10月の間に、連続2週間以上の休暇をとることを定めたフランスの法律。フランスのみならず、ヨーロッパの各国は、日本では考えられないような長期休暇をとることが当たり前になっています。また有給の日数もその取得率も日本とは比べ物になりません。つまりヨーロッパの人たちは、とにかく「きちんと休む人たち」だと言えるでしょう(ただし「祝日」は日本の方が圧倒的に多い)

とはいえ、私たちが長きにわたってヨーロッパの革業者と取引をする中で、最近は少しずつ夏季休暇が短くなっているように感じています。また休みをとるべき期間には幅があるので、5月に休む人、6月に休む人……と、社内で日程を分散させる企業も少しずつ増えてきました。

しかしやはり夏場を基本とする人が多いのも事実です。それに例えばイタリアでは小中学校が7〜9月の3ヶ月間、丸々お休みの場合も多く、必然的にそのお父さん・お母さんも同じタイミングで休みを取らざるを得なくなるケースも見られます。

つまりその期間は、革の生産が止まってしまい、日本へと発送してもらうことができません。私たちのお客様の中には、8月や9月に革を必要とされる方も当然いるので、この期間を問題なく乗り切るために、数ヶ月前から準備を進めていく必要が出てきます。

ちなみに欧州の「バカンス」は、“何もしない”というのが基本的な過ごし方。もちろん人にも寄りますが、日本の長期休暇のように、旅行にいったり、帰省をしたりするわけではないようです。

ここまではヨーロッパの業者と取引をする企業ならどんな業種にも当てはまる問題です。しかし革ならではの難しいポイントもあります。それは「革をつくるタンナーは、一斉に休みをとりがち」ということ。先述の通り、昨今では社内でお休みを分散させることで、たとえば事務手続きや連絡、発送などはお休みの間も対応するなど、最低限の機能は確保している企業も増えてきました。しかし実際に革をつくるタンナーの場合は、休暇中に工場の掃除業者を入れたり、機械のメンテナンスをしたりする関係もあって、ずらして休むということがなかなできず、工場を全体をストップさせることが多くなります。

また革は他の商材と違って“生モノ”なので、「長期休暇の前にこの工程までをやって、休み明けにその続きからやる」といった進め方が難しい素材です。休み時は、全部を止める。そして一度工場を動かし始めたら、効率的な観点からもできるだけ動かし続ける。それがヨーロッパのタンナーだけでなく、例えば国内にある姫路のタンナーも含めた基本的な考え方になります。

こちらは国内タンナーの工場。大きな機械なので、一度回し始めたら、できるだけ回し続けたいと考えるのが一般的です。

ではそういった状況に対して、どのように対応しているのでしょうか。

まず前提として絶対にやらないといけないのが、私たちのお客様が夏〜秋に必要な革の数や種類を正確に把握し、前もってヨーロッパのタンナーに発注をすることです。6月に入るとすぐに弊社にある在庫を確認し、それをお客様にアナウンスしながら、タンナーごとに、そして革の種類ごとに対策を練っていきます。

また7月〜8月に生産が止まるということは、6月あたりは世界中から発注が増えるので、現地のタンナーもキャパオーバーとなり、納期までの時間が通常より長くなることもあります。それは夏季休業が開けた9〜10月も同じで、休業中に入ってきたオーダーが溜まっているので、同じく生産に時間がかかります。さらにタンナーによって休業のタイミングや長さも違うので、一軒一軒、密に連絡を取り合いながら、細かい対応が必要です。

もちろん私たちの取引先の方々にも、ヨーロッパにおける長い夏季休業のことを知っている方がいて、ご協力・ご配慮していただくことも増えてきました。それに対しては、毎年のことながら感謝の念に堪えません。

無事に発注が済み、革が日本へと到着した後にも、まだ問題があります。それが2〜3ヶ月分が一度に届くので、それをさばくのが非常に大変だということ。お盆前後には多いと1週間に3便もヨーロッパから革が届くこともあり、もちろんその間も姫路からの国内便は通常通りに納品されるので、猛暑の中、大量の革を扱っていく必要があります。

こちらはイタリアから『ペコスハード』が大量に届いたときの様子。

Conceria La Bretagna

PECOS HARD / ペコスハード

生産国 : イタリア
タンナー : コンツェリア・ラ・ブレターニャ
種類 : 牛ショルダー
平均サイズ : 140ds

特に弊社の場合はタンニンなめしの革の取引が多く、雨は天敵。ダンボールの状態で届くものはまだいいのですが、開梱された状態の革を下ろすタイミングで雨が振ると大変です。弊社の場合はトラックを前の道に停められるので、倉庫までの距離はほんの数メートル。それでもスマホの「雨雲レーダー」とにらめっこをしながら、時には自家用バンをバックでつけることで、トラックの屋根が重なるようにしたり、人が集まってダンボールで大きな傘をつくったり。運動会さながらの協力体制で奮闘しなければなりません。大切な商品を最適な状態のままお客様の元に届けられるよう、細心の注意を払って下ろしていきます。

荷下ろしの光景はインスタグラムにも掲載していますので、ぜひチェックしてみてください。

ということで、今回はインポートレザーを扱う業者を悩ませる『バカンス問題』を紹介してきました。

お伝えしてきた通り、弊社ではこれまでの経験や、現地タンナーとの強いパイプを活かしながら、夏場の納品も問題なく進められるようにさまざまに工夫を凝らしています。夏場は発注できない、もしくは数を出せないというわけではありませんので、いつでもお気軽に相談・お問合せください。