協進の革

2025.06.30 UP

革の代表的な魅力「経年変化」ってどんなもの?

革が持つ数々の魅力の中でも、ひとつを挙げろと言われると「経年変化(エイジング)」と答える人も多いはず。

多くの革ラバーを惹きつけてやまない「経年変化」について、実際に変化した革小物のビフォーアフターを見ながら、改めて深堀りしていきます。

「経年変化」ってどんなもの?

「経年変化」とは、革だけでなく、さまざまなモノが物理的または科学的な要因で変化していくことを指す言葉。一般的に、良い意味で使う場合と、悪い意味で使われる場合があります。

良い意味というのは、お酒や食品などにおける「熟成」や、木材や革といった自然素材における「風合いの変化」が当てはまるでしょう。

逆に悪い意味は、人間や動物の「老化現象」や、機械、工業製品などの使用年数が増えることで起こる「品質低下や不具合」、金属の「サビ」やプラスチックの「劣化」などが挙げられます。

「革」においても、お手入れをしないと出てくる「ひび割れ」「塗装の剥げ」など、悪い意味の変化であり、“経年劣化”を起こす可能性もあるので、注意が必要です。

しかし革の場合は、手に馴染んでくるぬくもりがあり、他の素材の製品が変化した時には感じられないような愛着も湧いてくるでしょう。

3つとも国内で作られたヌメ革『サンドバイパー』の使う前(上)と、28日間つかった後(下)。使い方によって変化も違います。

ブレターニャ社『ゴースト(ロー引き加工)』。左が使用前で右が使用後。28日でここまで変わりました。

たった9日間、ポケットに入れて使用するだけで『サンドバイパー』はこれだけ変化しました。

よく「タンニン鞣しの革が経年変化する」と言われますが、そんなことはありません。クロム鞣しのものを含むすべての革が、使っていくことで「型」「艶」「色」「タンニン剤」に変化が見られます。ではひとつずつ、具体的に見ていきましょう。

「型」の変化

革には特徴のひとつでもある「伸縮性」が備わっているので、使っていく中で靴が履きやすく足のカタチに馴染んだり、カバンが使いやすくなったり、ベルトがしっくりくるようになったりと、持ち主のためだけの型に合うように変化していきます。

デュプイ社の『ベジタル』を23日使用。クロム鞣しでも色も濃くなり、使う人に適したカタチに馴染んでいきます。

「艶」の変化

使用する中で、手で触ったり、衣服とこすれたりすることで、どんな革にも含まれているオイルが磨かれて艶になります。

ただし過度な色止め加工や顔料仕上げがされているものだと、オイルが表面に出ず、艶は出にくくなることもあり、さらに含んでいるオイルの種類によっても艶の出方に違いがうまれます。

ブレターニャ社の『アリゾナ』(59日使用)と、コンチェリア800社の『トスカーナリスシオ』(14日使用)は、使うことでこのように艶が出ます。

「色」の変化

一般的に、革に使われている染料や顔料は、日光の紫外線や蛍光灯から出る微量な紫外線によって、分子が酸化して破壊されてしまい、退色してしまいます。また百貨店などの売り場においても、陳列用の照明の光によって表面温度が上昇。その結果、退色反応色褪せを促進します。

革の仕上げ方や鞣し剤、加脂剤といった共存物質などによって光退色の度合いが変わりますが、一般的には以下のことが言えます。

・顔料仕上げの方が、染料仕上げと比べて耐光性が高い
・染料の濃度が高い(色が濃い)方が、変退色は少ない
・光による影響を受けやすいタンニン剤が含まれる方が、変退色が大きい
・酸化を促す加脂剤が含まれる方が、連鎖反応により染料も酸化し、退色しやすい

イルポンテ社の『マヤ』を59日使うと、ここまで色が変わります。

「タンニン剤」の変化

植物タンニン鞣しの革(ヌメ革)は、クロム鞣しの革と比べて柔軟性に劣るため、その補助として油脂を多く含ませています。その結果、革に含まれる植物タンニンや油脂が日光や汗、雨や水などの影響で酸化し、飴色に変化。人間の皮膚と違って革は新陳代謝をしないので、次第に濃い色に変化して、元に戻ることはありません。

科学的な視点から話すと、植物タンニンは「ポリフェノール系」の化合物であり、光や酸素と反応しやすく、構造が変化することで、褐色化します。これはリンゴの切り口が茶色く変化していくのと似た反応です。

飴色に変わっていく理由としては、以下のようなものが挙げられます。

1.紫外線の影響
太陽光や蛍光灯などに含まれている紫外線にさらされることで、革に含まれる植物タンニンが酸化し、色が濃くなる。

2.革に含まれる油脂や手脂
革に含まれている油分や、使っているうちに革に浸透していった手の脂やクリームなどの油分が酸化し、変質して、色味が深まる。

3.空気中の酸素と反応
空気に触れているだけでも、植物タンニンは少しずつ酸化して、色が変わる。新品でも保管中に色が濃くなることもある。

4.水分や湿気との反応
革に水滴や湿気が吸収されることでタンニン成分が活性化しやすくなり、酸化が進行し、色変化が早まる。

植物タンニン鞣しの革はクロム鞣しの革に比べて、鞣し剤自体も変化するので変化の幅が大きく、さらに吸水性も高いことから変化速度も速くなります。また一般的に天然の革が持つ本来の風合いを大切にするため、表面の仕上げが薄いことが多く、変化していくのが見えやすいこともあり、よりエイジングを楽しむことができます。

染色をしていないブレターニャ社の『アリゾナロウ』(59日使用)と、『トルコヌメ』(28日使用)も、大きな変化が。

革らしい変化をより楽しめる植物タンニン鞣しの革ですが、注意も必要です。それは吸収性が高いので、雨や湿気で水分を吸収しやすく、それが乾燥する時に油脂も一緒に抜けてしまうということ。濡れたまま放置したり、使わずにしまったままにしたりすると、カビが生えたり老化が進んでひび割れを起こしたりするなど、「経年劣化」してしまうこともあります。

おわりに

いかがでしたか? 革が経年変化していく仕組みや、どのように変化していくのか、さらに“経年劣化”させないための工夫など、ご理解いただけましたでしょうか。

協進エルでは、先日開催された東京レザーフェアのブースでも話題となった「変化前と変化後」がよく分かる展示を、自社のショールーム内に設置中。気になる方はぜひお気軽にご連絡ください。