約200万年前から使われているという記録も残る、“世界最古のリサイクル素材”、革。私たちの先祖は、遠い遠い過去から、生きていくために動物の肉を食べ、その尊い命をすべて使い切るためにも、残った皮を用いて、道具に使ったり、衣服として用いたりしてきたということは、このサイトでもお伝えしてきた通りです。
そんな革ですが、素材としての特徴はさまざまな観点で語ることができます。今回はその中でも部位(=場所)に焦点を当てて話を進めていきましょう。
原皮がもたらす違い
まずは前提として革として一番多く使用されている牛革の「原皮(=げんぴ)」の話をしてみましょう。現在日本のタンナーが使う原皮、つまり人間がお肉を食べた後に残った皮は、大きく「北米産」、「ヨーロッパ産」、「国産」に分けられます。
牛革は部位による特徴もさることながら、原皮の産地によっても特性が変わってきます。一般的にヨーロッパ産のものは、管理された柵に囲まれた中で過ごしていることが多く、筋肉質で脂肪が少ない状態で成長していきます。私たちが食べる「ヒレステーキ」をイメージしてください。
一方で北米産、国産の牛は放牧された状態で牧草を食べて育てられるのが一般的。それが故に傷が多くみられ、さらに脂肪が多い状態となります。こちらは『サーロインステーキ』や『霜降り肉』のイメージが近いでしょう。
こういった特徴はなめしの工程を経て『革』になった際にも反映されます。そしてこの違いは、土地の広さなどの要因もありますが、基本的には「現地の人たちがどういったお肉を好んで食べるか」という嗜好が影響されたもの。ここでも「そもそも革は副産物である」という考え方を再認識させられます。
部位による特性の違い
続いては本題である部位による違いについてです。牛の革は部位によって繊維質の密度やきめの細やかさ、シワの入り具合などがバラバラ。特に植物タンニン鞣しでは伸びが少ないという特性上、その違いが出やすくなります。
したがってヨーロッパのタンナー、特に植物タンニン鞣しを施しているタンナーは、わりと繊維密度が似ている『ダブルショルダー』、『ダブルバット』、『ベリー』など部位ごとに取引されることが多いです。
なお日本のタンナーは丸革で仕入れますが、牛の革はサイズが大きいので、取り扱いやすいようにわりと早い段階で背割り(=左右対称に裁断:「半裁」と呼びます)します。
上は実際の部位ごとに分けられた植物タンニン鞣し革の『ダブルショルダー』『ダブルバット』『ベリー』部の画像です。ではそれぞれの特徴を見ていきましょう。
【ショルダー】
「ショルダー」はその名の通り「肩」であり、繊維の密度は高いですが、非常によく動かす部分なので、繊維がほどよくほぐれていて柔軟性があります。そのため使いやすく、「バック」、「財布」、「ベルト」など幅広い用途で使用されています。またシワが多くトラがあるので、その風合いを生かすこともできます。
弊社の取り扱い製品の中で代表的なものは、コンツェリア・ラ・ブレターニャ社の『アリゾナ』や、タンナリー・マズール社の『ルガート』などがあります。
【バット】
ショルダーよりもさらに繊維密度が高いのが、牛のお尻の部分になる『バット』です。伸びが少なく、厚みがあって丈夫、ばらつきやシワも少ないので、非常に良質な素材であり、高価な部位として知られています。
サイズが大きいので、一般的には背中の部分で分割して使うことが多いのですが、背中をまたいだ1枚として扱われることもあり、それは『ダブルバット』と呼ばれています。
弊社の取扱製品の中では、姫路市御着地区のタンナーがつくる『サドルレザー』や、タンナリー・マズール社の『バケッタ ダブルバット』などがあります。
【ベリー】
牛のお腹であるベリーは、これまで紹介した他の部位と比べて、繊維の密度が低く、またサイズも幅がせまく厚みもないので、用途が限られるものの柔らかさや伸縮性に長けており、独特の味わいがあります。
主な使用用途としては、手に馴染みやすい財布が代表的です。
おわりに
いかがでしたか? 生きている動物だからこそ、部位ごとに大きな違いがあり、また1頭1頭の個体差も見られるのが革の難しいところであり、また同時に素材としての魅力です。
ここまで説明してきた通り、部位によって違いが出るのですが、その違いをできるだけなくして均一につくれるのが日本の技術のすごさであることも最後に触れておきます。
商品によって違いますが、それぞれ繊維の違うショルダー、バット、ベリーの状態を見極めて、大きな革全体をバランスよくできるかぎり同じ質感になるように仕上げる技術と感覚においては、日本のタンナーは世界でも有数の腕を持っていると言えるでしょう。
そんなタンナーの方々と力を合わせながら、これからもたくさんの良質な革をお届けできるように、私たちも頑張っていきます。