協進の革

2025.08.31 UP

革はなぜ1枚だけでつくれないの?

革製品をつくっている人なら、「1〜2枚だけほしい」と考えたことが一度はあるはず。しかし小ロットの注文は断られることも少なくありません。
もちろんタンナーや卸問屋で在庫しているものであれば少量でもすぐに手配することができますが、そうではない場合、革は1枚だけつくるのが難しい素材とされています。今回はその理由を考察していきましょう。

Theme01

1枚だけつくるのが難しい理由1「効率性」

ひとつ目の理由として、革をつくるためには、大規模な機械や設備、そして大幅な時間がかかるという点が挙げられます。

革を鞣したり、染色をしたりする際には、主に「ドラム」という樽状の大きな機械を回転させて、水分や薬剤を浸透させていきます。この「ドラム」は一般的に数十枚〜数百枚を入れて回すように設計されたもの。そこに1〜2枚だけを入れても狙ったように浸透していきません。またドラムに100枚入れて染めるのも1枚を入れて染めるのも、作業工程としては変わらず、要する時間も同じで変わらないので、小ロットだと非常に効率が悪くなります。

協進エルと取引のある松原地区のタンナーの画像。ドラムの大きさがよく分かります。

また仕上げの観点からみても、塗装に用いる「ロールコーター」「オートスプレーマシーン」といった機械は、塗料を充填させて塗装を開始するまでに時間がかかるだけでなく、使用後の機械の洗浄にも非常に長い時間がかかるので、小ロットだと塗料のロスが生じるだけでなく、コストパフォーマンスはもちろん、タイムパフォーマンスも悪くなります。

Theme02

1枚だけつくるのが難しい理由2「色」

ふたつ目は「色」の安定性や再現性の問題です。

いつもお伝えしている通り、革は天然素材であり、個体差や部位によって染まり方が異なります。一度に何十枚〜何百枚を染めれば、色ムラも平均化されますが、小ロットだと染まり具合の不均一さが目立ってしまい、製品としては安定性を欠いたものになりがち。また一度つくった革の色を、もう一度再現することも難しく、オーダーされた色の安定供給が困難です。実際に小ロットの場合だと、同じ原皮で、かつ同じレシピだったとしても、前ロットとまったく同じに仕上がることはほぼなく、どうしても微妙な違いが生じてしまいます。

さらに小ロットだと、テスト染めの回数を減らしたり、色や風合いの調整の余地が少なかったりするため、失敗する可能性も高くなり、そういう意味でも色のコントロールが難しくなります。

色の個体差をなくすためには、できるだけたくさんの革を一度につくる必要があります。

おわりに

いかがでしたか? 機械の仕様作業の効率性品質管理の難しさなど、さまざまな要因が絡み合った結果、革は他の繊維素材などと比べて小ロット対応が難しくなる理由がご理解いただけたでしょうか。

もちろん一部の染色工場や職人が小ロット対応を行っているところもありますが、そういった工房では手作業が中心となるので、量産のものと比べてコストが上がりがち。産業レベルの染色で考えると、どうしてもある程度のロット数が必要になってきます。また仕上げの観点からも、枚数が少ない場合は機械ではなく人の手作業によるスプレーガンが使われることが多く、大きな牛革に吹くと、濃い部分と薄い部分で手ブレが出来てしまい、均一性を求めるお客様には不向きです。

とはいえ、私たち協進エルでは、長い歴史の中で培ったタンナーとの絆で、できる限りの小ロット対応を可能にしております。ぜひお気軽にご相談ください。